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卒業生の皆さんへ

2015/03/18

2014年度卒業生・修了生の皆さんへ

学長 佐々木 雄太

本日、ここに、山田拓郎犬山市長、日比野良太郎犬山商工会議所会頭をはじめご来賓の皆さまをお迎えし、また多数の保護者の皆様の見守る中で、平成26年度卒業式・学位授与式を挙行できますことを大変嬉しく思います。ご来賓の皆様、保護者の皆様には、ご多用にも拘らずご臨席賜りまして、心から御礼を申し上げます。

卒業生、修了生の皆さん、おめでとうございます。今、皆さんは人生の大きな節目のひとつを迎えています。この時に当たって、あらためてこれまでの道のりを思い起こし、門出の抱負を温めてください。長い人生の節々において、想いを新たにすることは、その先の人生の充実につながると思うからです。
ただいま卒業証書授与に続いて、学業をはじめ様々な分野で活躍した卒業生に「学長賞」を授与しました。勉学に励み、優れた成績で課程を修了し、あるいは資格取得や検定試験に挑戦して見事に目標を達成して、他の学生たちに勇気を与えた方々、大学祭やオープン・キャンパスなど大学の重要な行事に進んで協力し、学生・教職員一体で大学運営を進めるという文化の一端を担った皆さんたちです。
今年はスポーツクラブの目覚ましい活躍もありました。剣道部、バスケットボール部はともに全国大会出場を果たし、全国区の大学に名を連ねました。一方、若いサッカー部は愛知学生サッカーリーグの優勝を無敗で勝ち取り、東海学生サッカーリーグ(一部リーグ)への昇格を果たしました。こうした成果には、様々な形で本日卒業の皆さんが関わっていたことと思います。
他方、卒業単位の取得に思わぬ苦労をしたり、就職活動が思うようにいかずに苦難を味わったという皆さんもおられると思います。そのような苦い思い出を含めて、皆さんが、本学において友人たちと共にした経験の数々が、これからの人生において、皆さんを支え、励ます力になることを願います。
本日、修士あるいは博士の学位を取得された大学院修了生の皆さん、皆さんには習得された知識や知見を存分に発揮して、社会のリーダーとしてご活躍くださることを期待いたします。
そして、短期大学部キャリアデザイン学科の卒業生の皆さん、皆さんはこの学科の最後の卒業生となります。最後の学年の皆さんが揃って卒業を迎えられたことを大変嬉しく思います。出身の学科に幕が引かれるのは皆さんにとって大変さびしいことであろうと推察いたします。この上は、皆さんのこれからの活躍によって、キャリアデザイン学科の名を世に残していただきたいと切に願います。

さて、私は、毎年3月になると、卒業式のことばを考え始めます。
私は、皆さんの行く末が希望に満ちた時代であることを心から願います。卒業生の皆さんの明るい将来を語り、旅立ちをもっぱら激励するような祝辞を送りたいと考えます。
しかし、残念なことに、皆さんが向き合わねばならない社会は決して皆さんにやさしく、居心地の良い社会とは言えないようなのです。
今、その社会に出て行こうという皆さんに水を差すようなことを申し上げたくはありませんが、皆さんが、自分たちを取り巻く社会の現実に、しっかり目を向けることも大変重要だと思います。
この大学における最後の短い講義と思って、少し私の話をお聞きください。

長い間不況が続いた日本経済の回復は、まだまだ国民の多数には届いていません。その影響もあって、近年、経済的理由で中途退学を余儀なくされる学生が増えていることに、胸を痛めています。
また、東日本大震災と原発事故からの復興も、計画通りには進まず、特に、放射能汚染のために故郷を追われた被災者の「生活と心」の問題は、いっそう深刻になっているように見えます。
他方、数年前に東京秋葉原で起きた無差別殺人事件を思い出させるような、残忍な事件が最近も相次いで生じました。
国際社会にも、「イスラーム国」というグロテスクな組織の登場も加わって、武力紛争やテロが横行しています。
このようなすさんだ社会現象には、様々な社会的要因や個人的な理由が重なっていると承知していますが、私は、その根っこには、この数十年間に、世界的な規模で、また日本国内で展開した、経済のあり方や、政治の混迷が深くかかわっているように思います。

最近、トマ・ピケティというフランスの経済学者の『21世紀の資本』という本が大きな話題になっています。また、「資本主義」という今の経済システム全体が行詰りに近づいている、と説く書物が目につくようになりました。
ピケティ教授をはじめとする経済学者が、今の経済システムの深刻な問題として指摘するのは「格差」です。じつは、この数十年の間に、国家間の経済格差が非常に大きくなりました。また、富める人と貧しい人との所得格差が驚くほど拡大しました。
アメリカの代表的企業の最高責任者の平均的年収はなんと約16億円、これに対して生産現場の労働者の平均給与は年に約600万円だそうです。じつに275倍の格差です。ちなみに、日本の労働力の4分の1ないし3分の1近くを占める「非正規雇用」の労働者の場合、その大部分が年収200万円以下、半数近くは年収100万円に届かないという実情もあります。
ピケティ教授は、こうしたとんでもない格差は「民主主義の危機」だと警告します。経済を「資本」の論理、「市場」の原理にゆだねたままでは、「格差」は拡大し続ける。したがって「人」や「政治」が介入して「資本や市場」をコントロールし、あるいは「富の再配分」や「格差是正」を行わなければならない、と説いているのです。

じつは、20世紀後半の世界では、「国家あるいは政治が経済をコントロールして、社会的弱者の救済と社会の安定に努める」という思想が広く共有されていました。「福祉国家」と言う言葉を皆さんもご承知と思います。地球上の「南北格差」をなくする国際的な取り組みも盛んに論じられた時期がありました。
ところが、40年程前にこのような考え方が放棄されて、経済はもっぱら「市場と自由競争」に委ねられるべきだ、という考え方に取って代わられました。
ひたすら利潤の増殖を追い求める「資本」の運動とともに、経済・社会の様々な場面で競争が激化して、弱者の貧困化と格差の拡大が顕著になっていったのです。
経済とは、本来、人々にすべからく豊かさをもたらすための、基本的な社会活動です。しかし、この間の激しい競争経済は「人間を忘れた経済」と言ってよいかもしれません。「資本や市場」に委ねられた経済は、グローバルなレベルでも、国内のレベルでも、「人の豊かさ」ではなく、もっぱら利潤増殖の競争を繰り広げました。この、度を越した競争社会化が、人間社会の「共に生きるという側面」と「社会的弱者への思いやり」を忘れさせたと思えてなりません。
もちろん無差別殺人などをすべて「世の中や経済のせい」にするわけにはいきません。しかし、今申し上げたような経済や社会の在り様、そして、それを改善できない最近の政治の機能停止が、置いて行かれた人たちに、どうしようもない閉塞感、行詰り感を生みだし、それが今日のすさんだ社会現象に繋がっていると思うのです。

私が、皆さんにも関わって、由々しき社会問題のひとつと考えるのは、今日、日本の30歳以下の若者のじつに3割が、派遣社員・契約社員、アルバイトなど不安定で待遇が劣悪な「非正規雇用」の境遇に置かれていることです。
これは、その当事者にとっては勿論のこと、社会全体にとってもゆゆしき問題です。社会が経済危機や災害を乗り越えて健全な発展を遂げるには、この後数十年にわたって社会を支えていく若い人々が、職業を通して社会としっかり結びつき、それぞれの能力を万全に発揮することが必要不可欠です。
私たちは「名古屋経済大学は、一人ひとりの学生を仕事につなぐ大学です」という標語を掲げて、キャリア教育、キャリア支援に力を入れてきました。これは単に「就職のいい大学」としてウケを取るためではありません。皆さん一人ひとりを「仕事」につなぐこと、仕事を通して社会にしっかり根を下ろしてもらうことが、これからの皆さんの人生にとって、また、日本の将来にとって、大変重要だと考えるからなのです。

 このような時代に社会に出て行く皆さんに、二つのメッセージを送ります。
第1に、皆さんはこの社会にあって「ヤドカリのように暮らしてはならぬ」というメッセージです。これは昨年度の卒業生にも申し上げたことです。
「ヤドカリ」などと妙なたとえを出しましたが、これは、トルコのある詩人が幼い息子に当てた詩の一節なのです。詩人は、「この地上に生きるには 宿かりのように暮らしてはならぬ。この世で生きるには 父の家に住むように生きるのだ」 とうたいました。
お分かりのように、皆さんには、「自らの仕事を通して社会にしっかり根を下ろして生きていただきたい、ヤドカリのように、ねぐらをとっかえひっかえし、きょろきょろしながら世の中を渡っていくのはならぬ」という意味です。

皆さんが生涯を通して「自分にふさわしい職・仕事を探す」ということは大事なことです。しかし、周りをきょろきょろしながら「自分にぴったりの、自分の好みの仕事」を探しても、滅多にみつかるものではありません。また、たとえ「自分にマッチしていると思う就職先や会社」を選ぶことができたとしても、「好きなこと」だけを行って一生過ごせるものでもありません。
じつは、職業あるいは就職先は「自分の選択」というより、「出会い」という側面が大きいのです。ですから、「出会った」職業や会社と、この後数十年にわたって「どのようにつき合い、そこにどのような自分の生きがいを見出していくか」ということが、むしろとても大事なのです。出会った職業との真摯な向き合いの先に、「これが自分の仕事だという究極の出会い」をつかむことができるのだと思います。
皆さんには、出会いを得たそれぞれの職業を通して社会としっかりつながり、ヤドカリではなく、「社会の主人公」として生きていただきたいのです。

二つ目のメッセージは、皆さんには「生涯学び続ける決意と覚悟」を持っていただきたいということです。
今、世界は、経済のグローバル化を軸にして、大きく変化しつつあります。また、情報科学や生命科学に見られるように、科学技術の進歩も勢いを増しています。さらに、東日本大震災や原発の大事故を経験して、人々の価値観が大きく変わりつつあります。
このような「変化の時代」には、皆さんがこれまでに習い覚えた知識や技術は、役に立たなくなるかもしれません。皆さんは、これからの人生の中で、おそらく何度も、それまでに経験しなかった出来事や問題に出会うことと思います。そして、そのたびに新しい学びが必要になるわけです。
また、先にお話した「ヤドカリ」にならないために、あるいは不幸にしてヤドカリの憂き目に陥った場合には、その殻から抜け出すために、自分自身のスキルアップ、キャリアアップを求めて「学び」を重ねることが必要です。
社会にしっかり身をおくことによって、皆さんには「学び」の課題がこれまでよりもずっとよく見えてくると思います。
皆さんには、現実の社会としっかり向き合って、そこに存在する問題を見極め、社会のあるべき姿、理想的な社会の在り方を追求していただきたい、その課題を実現するために学びを重ねていただきたいと思います。

どうか、皆さん、困難な時代に負けず、理想を掲げて、それぞれの人生を堂々と生きてください。そのために、これからも学びを重ねてください。
もし、皆さんが「学び直し」が必要だと考えた時には、名古屋経済大学を生涯の学びの場と考えて、いつでもその門をたたいてください。
皆さんのご健康とご活躍を心から祈りつつ、以上をもって式辞といたします。