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研究機関

落ちこぼれ研究者の回想

伊藤 俊雄(名古屋経済大学経営学部教授)

研究者としての落ちこぼれが原稿を依頼され困惑した。「困った時には原理・原則にもどれ」学生くんに日頃語っている文言を思い起こし、研究者としての歩みの事実認識からすすめることにした。

私とて、はじめから落ちこぼれを望んでいたわけではなく、それなりに学会に貢献する何かを残すことを願い研究への灯火を消さず精進しようと考えていた。しかし現実は厳しい。まさに「人の世は四苦八苦の世界」自分の思い通りには事は運ばない。最初の障害が短大時代の合宿セミナーであった。もともと体力に自信なくこの行事に疲労困憊した。そんななか研究への 灯火を確認すべく翻訳を志し『M.F.モーリィ付加価値計算書』を1985年上梓した。これが縁で学会報告の機会を得た。

大学院生時代からの研究テーマが付加価値会計であったこともあり、1970年代後半普及していたイギリスとフランスの付加価値会計のうちイギリスの研究書を翻訳の対象とした。ところが、学会のスタディグループのメンバーとして研究する機会を得、フランスの会計制度が私の担当となりプラン・コンタブルと会計実務の実態を調査することになった。テーマは、中間財務情報制度であったが、当時のフランスの主要会社30社に手紙を書き、財務報告書類の郵送を依頼した。アニュアル・リポートの入手は21社、半期報告書は7社、四半期報告書は4社の回収を得た。研究成果は『中間財務情報論』に取り込まれることになったが、CGE社からのその後の手紙のやりとりのなか「他国の会計実態を調査されて何の役に立つのですか?」の忠告に引っ掛かるものを覚えた。日本の会計実態を熟知していない私に、その通りかも知れないという不安が過ぎったのである。

次の障害は大学に移籍し訪れた。資格教育の要請である。他大学から資格教育に熱心な年配の教授が赴任されたこともあり、資格教育を拒否した私への組織からの無言の重圧を感じた。公認会計士、税理士、ましてや簿記検定の受検すら経験したことのない私には無縁の世界であった。大学教育と資格教育は志す方向が違うと考えていたのである。しかしこの障害により、大学教育とは何かを改めて問う機会を得た。大学教育のなか自分は何を考え、何を学生くんに伝えようとして来たのか、事実確認をしながら暗黙知を整理することを試みたのである。そして1992年『会計・管理・財務の世界』を上梓した。その後入院生活を余儀なくされたが、学会の重鎮から「このような書を欲しいと前から思っておりました」とのお手紙を戴き救われた気がした。私を救ったのはそれだけではなかった。『日本の大学'95年』の推薦教授として教授と私の名前が取り上げられ、それぞれ「資格教育に熱心」「質問にとことん付き合う」と学生くんの推薦理由が掲載されたのである。

この拙著を境に研究の方向を深耕から俯瞰へとシフトさせた。幸い学会での報告、学会誌・専門誌への掲載の機会も得て、研究と教育を同軸に整えることができたと安堵した。が、それも束の間、大学院が設置され演習と講義を担当することになったのである。

深耕を旨とする大学院で私の形式知としての拙著が受け入れられるかどうか不安を感じた。が、それは危惧に過ぎなかった。会計現場で修得された実践知がどのような意味を持ち、どのような体系のなか位置付けられるのか、社会人の関心は俯瞰に向いていることに気づいたからである。

2006年、各章に21世紀展望を加筆し増補改訂版を上梓した。第8章 会計・管理・財務の世界と人間の喜び、の21世紀展望で、大学教育への思いを次のように綴っている。

「現実に振り回されることなく、(1)歴史のなかで現実をとらえ、(2)全体のなかで部分を考え、(3)人類の知的財産を駆使して、現実の諸問題に挑んでいく。この『精神的エートス』こそ、大学教育によって培われるべきものではないか、そう考えています。なぜなら、学生が社会人となって様々な現実の諸問題に相対したとき、個人の人間がとる『構え』の不断の立て直しのエネルギーとなり、『士気(モラール)』を発揮する源泉となるのが、この『精神的エートス』に他ならないからです。それでは、『精神的エートス』を学生に宿す教育とは。答えは見つかっていませんが、(1)(2)(3)を根気よく学生に伝え続けていく情熱を失わないこと、そう考えています。福澤諭吉先生が、『学問のすすめ』のなかで、良き教師とは『言葉に富みて、言い回しの良き人物』と語られています。『大学全入時代』が訪れようとしているこの時代、ますます良き教師になることが問われています。・・・学ぶ意味は『自燈明』を育むことにあり、正見、正思、正語の三道が基本をなし、権力にではなく真理に近づくことが、自我の充実につながることを今後も伝えることができればと思っています。」

この第8章は、負の数を数として認められなかった時代の産物である複数簿記の原理を人間の能力と喜びをつなぐ形式的容器になりうる可能性を試論としてまとめたものであるが、大学院のゼミ生から職場における活用の了解を求められたときは忸怩たるものを感じたが嬉しかった。人間の喜びを「仕事の喜び」「家庭の喜び」「地域社会の喜び」の3種と仮定しどの部分に重きを置くかにより6種類の家族別賃借対照表が出来上がることを記したものであるが、ワークライフ・バランスの考察に役立てたいとのことであった。

私の「仕事の喜び」は、あと2年余りで終わりを告げるが、第7章 社会関連会計の歩みを、「付加価値会計の盛衰」という論題で、2009年『公共性志向の会計学』に寄稿することができた。人生は不思議な展開をするものである。

しかし振り返ると、その時々の偶然が必然であったように思われてならない。見えざる手を感じるのである。「一に人物、二に伎倆」「桜は桜、松は松」と、創立者である市邨芳樹先生の語録集『やぶつばき』が仕事の支えになってくれたことは間違いないが、私の場合、短大・大学・大学院と共に歩めたことは幸運と言う他ない。

落ちこぼれ研究者の歩みも捨てたものではないな、というのが事実認識によって得た結論であるが、学部の学生くんから頂いた文面を最後に紹介しておきたい。

「この学校には、先生と違い、向上心のない先生もいます。学生の立場からみて、信頼感や、授業に対する意欲が大きく変わります。現状、先生側からみて、授業中に私語をするなど、厄介な学生がいることも確かだと思うし、そんな中での授業は、先生にとっても疲れることと思いますが、向上心を持っている先生には、信頼している学生も多数いることと思います。日頃の、学生に対する先生の接し方や向上心には感謝しています。」

退職後は書棚に眠っている『新潮日本古典集成』全82巻の読了をプライベートな「仕事の喜び」と位置付けているが、果たして彼岸に渡るまでに達成し得るかどうか・・・。

研究組織活動報告

1 経済・経営研究会 会長:坂本 雅子 会員数:38名

[1]機関誌
経済経営論集 第16巻 第1・2合併号 2008年12月
論文
戦間期ドイツ再軍備について 石田 隆造
可児市における都市化の現状と課題 岸野 澄子
機械と資本主義的管理――マルクスの大工業論(2・完)―― 木村 隆夫
「東アジア共同体」から「アジア経済・環境共同体」への構想転換の経済的背景
――東アジア生産ネットワークにおける日本と中国――
坂本 雅子
米国連邦預金保険制度の危機と改革(9) 野村 重明
研究ノート
バランスト・スコアカードと経営戦略 高松 和宣
[2]活動報告
日時 2008年7月23日
会場 学術研究センター
報告者 野村 重明(名古屋経済大学経済学部教授)
テーマ セーフティ・ネットの形成――日本のケース――

2 法学会 会長:岩﨑 一生 会員数:27名

[1]機関誌
名経法学 第25号 2008年11月
論説
「未知の利用方法」と著作権契約の解釈 辻田 芳幸
コーポレート・インバージョン対策税制と租税条約 杉村 良夫
少子高齢化時代における外国人誘致と租税政策 田中 佳織
REITに投資する投資家の租税条約適用に関する研究
――OECDモデル租税条約2008を参考に――
大城 隼人
翻訳
韓国独占禁止法2007年改正施行令 中山 武憲
名経法学 第26号 2009年3月 秋田量正教授・岩﨑一生教授退任記念号
論説
「監査役による企業情報開示体制等の監査」 佐藤 敏昭
著作者人格権侵害と原状回復措置請求 辻田 芳幸
移転価格税制における企業グループ内役務提供取引
(Intra Group Services)に関する取扱い
――改正「移転価格事務運営要領」を中心として――
大城 隼人
サブリース契約への借地借家法三二条適用の可否 永沼 淳子
判例研究
不動産売買における媒介業者の重要事項説明義務の範囲 長瀬 栄二郎
報告
博士学位論文の論文内容の要旨および審査結果の要旨
研究ノート
Recent Development of the Archipelagic State Regime
-The Designation of the Archipelagic Sea Lanes by Indonesia-
富岡 仁
及川 光明教授 略歴・著作目録
宮崎 孝教授 略歴・著作目録

3 人文科学研究会 会長:宮沢 秀次 会員数:35名

[1]機関誌
人文科学論集 第82号 2008年11月
論文
教員免許の更新制 伊藤 利明
「道徳の時間」草創期における愛国心教育
――『倫理学会年報第1集』および『道徳教育実践上の諸問題』を検討して――
伊藤 博美
「女性の夫」のジェンダー偽装とセクシャリティ 川津 雅江
役割語としての女ことば 近藤 利恵
アメリカ奴隷文学と黒人小説の誕生 進藤 鈴子
20世紀初頭のラディカル派フェミニスト与謝野晶子
――徹底個人主義の主張と身体思想に見るその限界――
吉田 啓子
ウォレス・スティーヴンズ 原誌と訳注の試み(二) 堀田 三郎
翻訳
ウォレス・スティーヴンズ 原誌と訳注の試み(二) 堀田 三郎
人文科学論集 第83号 2009年3月
論文
学習指導要領の改訂 伊藤 利明
研究ノート
特別支援教育の現状 飯田 年美
「学力低下」問題を考える――学力低下論争の概観を通して―― 伊藤 時彦
翻訳
ウォレス・スティーヴンズ 原誌と訳注の試み(三) 堀田 三郎
[2]講演会
日時 2008年12月18日
会場 7号館7F1教室
報告者 速水 敏彦(名古屋大学大学院発達研究科教授)
テーマ 他人を見下す若者たち

4 自然科学研究会 会長:縣 孝之 会員数:26名

[1]機関誌
名古屋経済大学 自然科学研究会会誌 第43巻 第1・2号 2009年3月
日本の食べ物に対する韓国大学生の認知度および嗜好度調査 李 温九
片岡 あゆみ
章 貞玉
湯川 夏子
岐阜県東高山地域に分布する美濃帯の緑色岩体中のFeとTiに富む玄武岩 縣 孝之
足立 守
栄養教育による食事バランスガイドの理解度向上について 長島 万弓
[2]活動報告
第1回研究会
日時 2008年7月17日
報告者 吉澤 洋二(名古屋経済大学経営学部教授)
テーマ 卓球の国際大会に備えての日本の競技力向上

5 地域社会研究会 会長:日比野 雅俊 会員数:49名

[1]機関誌
地域社会 通巻59号 2008年11月
タイ東北部におけるプラーソム 日比野 光敏
口絵写真・テミズヤの盥 岡本 大三郎
郷土館めぐり・七宝町七宝焼アートヴィレッジ 小林 弘昌
郷土散歩・文化財を支える「家族」 日比野 光敏
文化短信(平成20年1月~6月)
地域社会 通巻60号 2009年3月
近畿各地のジャコずしとジャコの正体 日比野 光敏
口絵写真・井戸端の復活 岡本 信也
郷土散歩・すっぽり抜けた「枇杷島」 日比野 光敏
郷土館めぐり・秤乃館 秤屋 健蔵
文化短信(平成20年7月~12月)

6 比較文化研究会 会長:宮川 昇 会員数:20名

[1]機関誌
比較文化研究 第28号 2009年3月
巻頭言
中国の変化――帰国雑感―― 李 彩華
講演
民族文化と国民性の相関関係 範 景武/李 彩華 訳
論文
住民投票で全部決めれば議会はいらないか? 高田 豊實
研究ノート
与謝野晶子の社会評論再考:家族論・女子教育論を中心に 吉田 啓子
資料
古典の誌歌の鑑賞 堀田 三郎
[2]市民開放講座
第1回
日時 2008年9月18日
講師 宮川 昇(名古屋経済大学経済学部教授)
テーマ 「芸術は誰のモノ――文学表現の芸術的鑑賞法」
講師 高田 豊實(名古屋経済大学短期大学部教授)
テーマ 「住民投票で全部決めれば議会はいらないか?」
第2回
日時 2008年10月4日
講師 吉田 啓子(名古屋経済大学経済学部教授)
テーマ 「憲法24条の草案を書いた人――ベアテ・シロタ・ゴードンさんのこと」
講師 堀田 三郎(名古屋経済大学法学部教授)
テーマ 「古典の和歌の鑑賞」
第3回
日時 2008年10月11日
講師 宮田 尚雄(名古屋経済大学人間生活科学部教授)
テーマ 「現代に生きるエンゲルスの生命観」
講師 渡邉 道斉(名古屋経済大学短期大学部教授)
テーマ 「アイヌ民族について」
第4回
日時 2008年10月18日(大学祭協賛行事)
講師 山岸 赳夫(弁護士・元地検検事)
テーマ 「裁判員制度について」
第5回
日時 2008年10月25日
講師 日比野 光敏(名古屋経済大学短期大学部教授)
テーマ 「米と日本人」
講師 進藤 鈴子(名古屋経済大学短期大学部准教授)
テーマ 「黒人文学とハイチ革命」
第6回
日時 2008年11月8日
講師 李 彩華(名古屋経済大学経営学部准教授)
テーマ 「北一輝と中国」
講師 宮川 昇(名古屋経済大学経済学部教授)
テーマ 「世界の詩歌――ホメロスから謡曲『高砂』まで」

幼児教育研究会 会長:石川 昭義 会員数:21名

[1]機関誌
幼児教育研究紀要 第20号 2008年11月 中西奝之助教授退任記念号
石川 昭義
ごあいさつ・略歴・作品紹介 中西奝之助
論文
バスク伝統スポーツ文化に触れる――バスク民族の身体観―― 船井 廣則
障害者福祉の草創期を支えた思想
――ノーマリゼーション思想の社会的な意義について――
星野 政明
土田 耕司
報告

2007年度親子ふれあい教室

第1回 『生き生きリトミック』 星野 名生規
第2回 『食育の大切さについて学ぼう』 長島 万弓
[2]活動報告
名古屋経済大学付属市邨幼稚園「親子ふれあい教室(未就園児対象)」の後援
第1回
日時 2008年6月3日
講師 藤田 雅也(名古屋経済大学短期大学部講師)
テーマ 「いろんな形をスタンプしよう」
第2回
日時 2008年8月22日
講師 市毛 愛子(名古屋経済大学短期大学部講師)
テーマ 「親子で楽しむ絵本」

学術研究センター活動報告

1.犬山オープンカレッジ2008

学術研究センターは、本年度も犬山市、犬山市教育委員会および犬山市商工会議所にご後援いただき、犬山オープンカレッジ2008を以下の通り開催した。

第1回 9月20日(土) 於:犬山国際観光センター フロイデ 参加者45名
講師 木村 隆夫(名古屋経済大学経済学部教授)
テーマ 「生活保障の仕組みを考える」
第2回 10月19日(日) 於:名古屋経済大学7号館 参加者78名
講師 中東 真紀(名古屋経済大学人間生活科学部講師)
テーマ 「便秘と下痢~21世紀の日本人の腸を考える~」
第3回 11月29日(土) 於:犬山国際観光センター フロイデ 参加者53名
講師 中山 武憲(名古屋経済大学法学部教授)
テーマ 「日韓両国の国民性の違いと法律世界への影響」
第4回 12月13日(日) 於:犬山国際観光センター フロイデ 参加者21名
講師 石川 昭義(名古屋経済大学人間生活科学部教授)
テーマ 「犬山市の次世代育成支援」

2.小牧市市民大学

学術研究センターは、本年度も小牧市民大学の実施に協力しました。テーマ、講師、日時は以下のとおりです。

第1回 2009年1月31日(土)
講師 伊藤 博美(名古屋経済大学生活科学部講師)
テーマ 「ふたつの人間関係」
第2回 2009年2月7日(土)
講師 萩原 俊彦(名古屋経済大学経営学部教授)
テーマ 「楽しく役に立つ大学の講義3話」
2009年2月14日(土)
講師 日比野 雅俊(名古屋経済大学経営学部教授)
テーマ 「離島からの日本再考」

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